「私にも権利がある」「あなたが悪いのよ」と繰り返される日常の中で、次第に言い返すことすらできなくなっていく——。モラハラという言葉はよく知られるようになりましたが、被害者が「夫」「男性」である場合には、今もなお理解されにくい現実があります。家庭内で相手の自由や正しさばかりが優先され、自分の感情や意見を押し殺す日々が続くと、「男の人権って何だろう」と疑問すら生まれてきます。
本記事では、モラハラ妻との関係に悩む男性たちの声や背景、そしてそこから抜け出すための視点について考えていきます。
「私は正しい」が積み重なると、言い返せなくなる日々
結婚してから、相手の価値観や生活スタイルに違いがあるのは当たり前です。お互いにすり合わせをしていくことで夫婦関係は深まっていくはず——。そう思っていたのに、いつからか「話し合い」が「一方的な裁き」のようになり、気づけば「君はそう思ってるんだね」とすら言えない関係になっていた。
「私の自由」「私の権利」「私が我慢しているんだからあなたがやるべき」——。それは正論のように聞こえます。でも、そればかりが繰り返されると、自分の感情や意見はどこに置けばいいのかわからなくなってしまうのです。
「モラハラ妻」という言葉にすら罪悪感がある
「モラハラ」という言葉は本来、性別を問わず使われるべきです。しかし、世間では「夫が妻に」「上司が部下に」といった上から下への文脈で語られることが多く、男性がパートナーからモラハラを受けていると訴えると、「情けない」「気が弱すぎる」と受け止められてしまうことがあります。
しかし、実際には次のような見えにくい圧力に苦しんでいる男性も少なくありません。
- 意見を述べると「それはモラハラ」と言われる
- 家事や育児を少しでも忘れると人格否定を受ける
- 妻の不機嫌に理由がなく、それを常に受け止めることを求められる
- 経済的に支えていても「当然のこと」と一蹴される
こうした状況が続くと、相手を怒らせないように言動を制限し、自分の考えや感情を押し殺すようになります。そしてふとした瞬間に、「これは自分の人生なのか」「男の人権って何だろう」と感じるのです。
権利と責任のバランスが崩れたとき、人は見えなくなる
「私にはこうする権利がある」と主張することは悪いことではありません。しかし、「相手の立場もある」という視点が欠けてしまうと、その権利は武器になってしまいます。
特に家庭の中では、「自分の考えが正しい」「あなたは間違っている」という構図が定着してしまうと、対等な会話が成り立たなくなります。そして、主張しない側——多くの場合は夫側——が沈黙を選び、内側で葛藤や疲弊を募らせるようになります。
これは男女の問題ではなく、主張と共感のバランスの問題です。男女平等が進む中で、男性もまた「家庭内での心理的な孤立」を抱えることがある、という現実にもっと目を向けるべきではないでしょうか。
「夫が我慢するのが当然」ではなく、「対話することが当然」に
かつての日本社会では、男性は「仕事で稼ぎ、我慢する存在」とされてきました。そして現代においては「育児も家事もして当然」「気遣いもして当然」と言われるようになり、負担は増えているのに、「ありがとう」や「大変だったね」の一言がない。
夫婦はチームであるはずです。どちらかがリーダーでどちらかが従うのではなく、お互いに感情を認め合い、支え合う関係であるべきです。
男性だから、夫だからといって、黙って耐え続けなければならないわけではありません。「言い返す」のではなく、「言葉にする」ことから始める対話が必要です。感情を言語化し、自分の境界線を明確にすることで、初めて相手にも自分の存在を伝えることができるのです。
男の人権は「傷ついていい」と認めるところから始まる
「男のくせに弱音を吐くな」「夫なら支えて当然」——。こうした刷り込まれた常識に縛られ、自分の限界を超えてしまっている男性は少なくありません。
でも、人は性別にかかわらず、限界を超えれば心が壊れます。モラハラを受けていても、「家庭を壊したくない」「子どもに悪影響を与えたくない」と、自分を後回しにしてしまう気持ちはよくわかります。しかし、その我慢が限界を超えたとき、本当の意味で家族を守ることができるでしょうか。
男の人権とは、「傷ついてもいい」「助けを求めてもいい」と認めること。その第一歩として、自分の感情に正直になることが、未来を変える鍵になるのです。
おわりに
この記事を読んで「自分もそうかもしれない」と思った方がいたなら、まずは「その感覚は間違っていない」と伝えたいです。モラハラは性別に関係なく起こる問題です。そして「誰かが苦しいと感じている」なら、その環境は健全ではありません。
夫婦はお互いの権利と尊重の上に成り立つ関係です。あなたの声も、感情も、大切にされるべきものです。まずは、自分を否定しないことから始めてください。